プレスリリース
― 頭脳を持ったアンテナの実現へ向けて ATR・KDD共同で試作 ―
(株)ATR環境適応通信研究所
(株)KDD研究所
平成12年5月10日
(株)KDD研究所
平成12年5月10日
5. 期待されるメリット 近い将来に見込まれる,DSPやFPGA等のディジタル信号処理デバイスの急速な進歩と,効率的な信号処理手法を組み合わせることにより,比較的小規模なハードウェアで高性能DBFアンテナの通信システムへの実装が可能になります.例えば,8素子で32のタップを用いた高性能アダプティブアレーを,サブバンド信号処理で用いて実装した場合,その計算量は,従来の方法で実現した場合に比較して約1000分の1* 7に低減することができます.このように効率的に実装されたアダプティブアレーを移動体通信システムの基地局側に応用した場合,フェージングの影響が軽減されるため,高速通信が可能となり,また端末の省電力化,小型化が可能となります. 【参考文献】 [1] 神谷幸宏,唐沢好男:“時間及び周波数領域信号処理を行う適応型アレーアンテナの種々の構成における特徴比較と収束と収束特性改善”,信学論 A Vol. J82-A No. 6 pp. 867-874 1999年6月. * 1 マルチパスフェージング:ひとつの送信アンテナから送信された電波が,受信アンテナに届く前に,いろいろな経路をたどって様々な場所でランダムに反射を繰り返し,それらが合成されて受信される現象を言い,これにより通信の品質が劣化します(下図参照). |
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* 2 DBFアンテナ:アレーアンテナを構成する複数の素子アンテナで受信されるそれぞれの信号を,ディジタル信号処理を施して合成することにより,希望信号の到来方向にアンテナの感度を高くし,干渉信号の到来方向に感度を0として,それらを空間的に除去するといった空間領域の信号処理を行う機能を持つアンテナです.また,このような処理を,ディジタル信号処理技術を応用して行うことにより,時々刻々と変化する環境に自ら適応し,たとえ環境が変化しても,常に高い通信品質を維持することができます.さらに時間領域の信号処理も同時に行うことにより,マルチパスフェージング環境において,フェージングによって遅延して到来する信号を取り込んで合成し,信号対雑音電力比(SN比)を改善することも可能です.このため,次世代高速移動体通信システムは,近未来のマルチメディア移動体通信システムのような高速無線システムにおいて,重要な要素技術となるものと考えられています.従来のアンテナと,最新のディジタル信号処理技術の融合による,“頭脳を持ったアンテナ”ということができます. * 3 サブバンド信号処理:もともと音声帯域の信号処理に用いられていた手法であり,ある帯域幅を有する受信信号を,サブバンドと称する複数のより狭い帯域に分割し,サブバンド毎に信号処理を独立に行う手法です.サブバンド信号処理のDBFアンテナへの応用にはいくつかの形態が存在しますが,その中で特に計算量の観点で有利となる構成を文献[1]に明らかにしています. * 4 DSP:Digital Signal Processorの略.コンピュータのCPUに対し,特にディジタル信号処理に必要な演算機能の性能を強化した演算装置. * 5 5個のDSP:帯域分割FFT,帯域合成逆FFT及び適応制御アルゴリズムを実行するDSPの数であり,データフロー制御用などのDSPの数は含んでいません. * 6 FPGA:Field Programmable Gate Arrayの略.現場でソフトウェアによって演算の内容を書き換えることが可能なゲートアレイ. * 7 計算量が1/1000:適応制御アルゴリズムにRLS (Recursive Least Squares)を採用し,8素子アレーアンテナを用いて32のサブバンドに帯域分割を行なった場合の乗算の数で比較.非常に多くの重み係数(DBFアンテナのパラメータ)を制御するとき,それらを一つの制御アルゴリズムで一括制御するとその重み係数は膨大となってしまいますが,サブバンド信号処理を適用したDBFアンテナはそれらを複数の制御アルゴリズムに分配して制御することができるために,このような大幅な計算量削減を実現することができます. |
※(株)ATR環境適応通信研究所は、2001年に研究プロジェクトを終了しております。