プレスリリース

単純な構造の半導体素子で中赤外発光に成功

(株)ATR環境適応通信研究所   平成12年6月27日

(株)ATR環境適応通信研究所と京セラ(株)中央研究所は共同で、 波長約6ミクロンの中赤外光 を発光する簡単な構造の半導体素子を作製することに成功しました。 この素子は、 波長数ミクロンから10数ミクロンの中赤外レーザ光の発振が可能な量子カスケードレーザ実現の鍵となるもので、 将 来の長距離大容量光通信やレーザレーダ・大気汚染センサの光源として応用が期待されています。
従来の半導体レーザの発振波長は使用する半導体材料固有の値で決まり、これまでに、 2ミクロン以下の近赤外から0.4ミクロンの青紫までの半導体レーザが開発されています。 しかし、より長波長のレーザを従来と同じ原理で実現することは困難とされていました。 これに対して量子カスケードレー ザは、半導体超格子(異なる材料を数原子層ずつ交互に積層した半導体) の性質を利用した新しい原理に基づく半導体レーザです。材料や超格子の構造で発振波長を決めることが可能で、 数ミクロン以 上の中赤外光に適しています。 1994年に米国のベル研究所で初めて量子カスケードレーザによる中赤外光のレーザ発振に成功しましたが、 これに用いた半導体超格子は構造が極めて複雑でした。
今回、作製に成功した半導体素子は、ガリウム砒素(GaAs)基板にGaAs層とアルミニウム砒素(AlAs) 層の基本構造を単純に繰り返して積層した構造であるため、結晶成長が容易であることが特長です。 両社では今後、室温連続発振する実用的な量子カスケードレーザの実用に向けて研究をすすめる予定です。 この研究成果は、6月28日から伊豆の長岡で開催される第19回電子材料シンポジウム(EMS19) で発表されます。

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量子カスケードレーザの特徴
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これまでに報告された量子カスケードレーザの代表例
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ATRが提案する量子カスケードレーザ
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ATRが試作した量子カスケード発光素子


※(株)ATR環境適応通信研究所は、2001年に研究プロジェクトを終了しております。