プレスリリース

舌先で電動車椅子を制御するワイヤレス式舌圧センサシステム

(株)ATR人間情報通信研究所 2001年2月8日

概要

(株)エイ・ティ・アール人間情報通信研究所(京都府精華町 関西文化学術研究都市 一ノ瀬裕社長)では、舌先の動きを検出するワイヤレス式舌圧センサシステムを開発した。今回、この技術を電動車椅子の制御に応用して、手足の不自由な人が自分で車椅子を操縦できるシステムを試作した。このシステムは、(1) フィルム状の圧力センサ4個と圧力信号検出回路および送信回路を一体化し、上あごに密着するプラスチック板(口蓋プレート)上に配置した口内ユニットと、(2) そこから発信される電波を受信し、車椅子へ駆動信号を出力する受信・駆動ユニットから構成される。  この口内ユニットを入れ歯のように上あごに装着し、舌先で圧力センサを押すことにより、圧力とその部位が検出されFM波により無線送信される。この電波を受信・駆動ユニットで受信し、内蔵されているマイクロコンピュータで信号処理して電動車椅子の運動制御を行う。口内ユニットにある4個の圧力センサは、前進・後退・右回旋・左回旋のそれぞれに対応しており、舌先の圧力の程度にしたがって車椅子の速度を調節することができる。

経緯

これまで話し言葉のメカニズムを解明するために、さまざまな計測法を用いるとともに新しい観測法も開発してきた。その一つとして、ニッタ株式会社(大阪市)との共同研究により高感度のフィルム状圧力センサを開発し、ことばを話すときの舌と口蓋との接触圧を計測する舌圧測定センサシステムを製品化した。今回のシステムはこれを応用したものである。

電動車椅子への応用

舌は精密な運動器官であり、舌先を手足の代わりに使うことができれば、身体障害者の補助手段となりうる。舌圧測定システムをこの目的に役立てるため、株式会社テイクファイブ(大阪市)に依頼して、口から出るケーブルをなくし電波により無線送信する装置を試作し、入れ歯を使うような感覚で舌先の位置と接触圧を検出するワイヤレス式舌圧センサシステムを完成した。今回の発表は、この装置を電動車椅子の駆動法として応用したものである。電動車椅子のインテリジェント化とは異なり、パソコンを搭載する必要がない点も特徴のひとつ。なお、電動車椅子として、株式会社ワコー技研(横浜市)の電動車椅子「エミュー」(アナログ入力回路付)を使用した。


主要技術 フィルム状圧力センサ ATR人間情報通信研究所とニッタ株式会社との共同研究により開発した高感度圧力センサユニット(写真1)。
(写真1)

ワイヤレス式口蓋プレート入力装置 センサ、送信回路、電池を口蓋プレート上に接着した口内ユニット(写真2:(株)テイクファイブが設計・試作)
(写真2)

受信装置およびFM波受信回路、信号処理用CPU、アナログ駆動回路を内蔵したコントローラユニット(写真3)
(写真3)

用途と実例

通事故等により頸椎を骨折し四肢にマヒをもつ障害者が車椅子を使用するには介護者による補助が必要だが、ワイヤレス式舌圧センサシステムを使用することにより、自分の意志で電動車椅子を操縦することができる。(写真4は、口内ユニットを装着して車椅子をコントロールしているところ。このように、運動制御用のジョイスティックを操作せず、電動車椅子のコントロールを行うことができる。) (写真4)

応用範囲

このワイヤレス式入力装置は電動車椅子の駆動の他に、コンピュータマウスの代わりに舌先の動きを使うデータ入力装置として、両手がふさがっているときの作業などに応用することができる。また、テレビなどの家電製品の操作にも応用できる。


(写真4)


※(株)ATR人間情報通信研究所は、2001年に研究プロジェクトを終了しております。