プレスリリース

2014年11月 4日
(株)国際電気通信基礎技術研究所

漏洩同軸ケーブルを用いたMIMO伝送技術を開発
~端末が密集する場所でも快適な無線通信を実現~

【要約】
●成果
 株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下「ATR」、本社:京都府相楽郡精華町、代表取締役社長:平田康夫)は、漏洩同軸ケーブル(LCX)をアンテナとして利用してリニアセルと呼ばれる直線状の通信エリアを形成する無線通信システムにおいて、通信容量を飛躍的に高めるMIMO伝送を可能とする技術(以下「LCX-MIMO技術」)を開発しました。開発したLCX-MIMO技術の適用により、1本のLCXを2アンテナ相当として利用することができ、従来の2倍のスループットを安定して実現可能なことを伝送実験により確認しました。さらに、放射特性の異なる2本のLCXを近接設置することで、4アンテナ相当として利用可能なことを基礎実験により確認しました。

図1 LCXを用いたMIMO伝送技術


●実現可能なこと
 本LCX-MIMO技術を用いてリニアセルを形成することにより、従来と同程度のLCX敷設コストと設置スペースで通信容量を倍増することができます。今後ますます増加する無線トラフィックを収容するため、地下街や商業施設、会議場等、多数のユーザが高密度に存在する場所でのLCX-MIMOリニアセルの導入が期待されます。

図2 LCX-MIMO技術によるリニアセルの導入先

 尚、本研究開発は、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(奈良県生駒市高山町、学長:小笠原直毅)と株式会社フジクラ(本社:東京都江東区木場、取締役社長:長浜洋一)と共同で実施している総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業「漏洩同軸ケーブルによる高密度配置リニアセルMIMOシステムの研究開発」(課題番号135007001)の成果の一部です。また、本LCX-MIMO技術は、2014年11月6日~7日に開催するATRオープンハウス2014https://www.atr.jp/expo/index.html)にて動態展示を行います。当日受付を行っていただければご見学いただけます。

【背景】
 近年、移動通信のトラフィックは、年率2倍以上の勢いで急増しており、特に多くの人が集まる駅・地下街・大規模商業施設等の高密度都市環境での大容量通信サービスの提供において、通信品質や接続性が低下する問題が顕在化しつつあります。このような多数のユーザが密集する環境に適した通信方式として、従来の小セル化よりも空間多重度を高めることができ、かつ電波不感地帯が少ないリニアセル方式が期待されています。LCXは地下街等の携帯電話の不感地帯対策や新幹線車内インターネット接続サービスでの地上-車両間回線等に既に使用されており、LCX敷設方向に沿って周辺に電波が放射される特徴からリニアセルを形成するのに適しています。LCXを用いたリニアセルにおいて通信容量を増加させるにはLCXの増設が必要ですが、その際の敷設コストや設置スペースの制約が大きな問題となっています。^そこで、この度ATRでは、奈良先端科学技術大学院大学と株式会社フジクラとの共同研究により、 -->LCXを利用したリニアセルにおいて、従来と同程度のLCX敷設コストと設置スペースで通信容量を飛躍的に高めるLCX-MIMO技術を開発しました。

【研究の成果】
 図3は、開発したLCX-MIMO技術により、1本のLCXを2アンテナ相当として利用するMIMO伝送システムの構成を表しています。従来は、1本のLCXでは1アンテナ相当の機能にとどまっていました。今回開発した技術では、LCXから放射される電波が指向性を持つ性質を利用して、1本のLCXの両側から異なる信号系列を有する無線周波数帯の信号を同時に入力します。これにより、既存のMIMO伝送システムで2本のアンテナを使用して送信した場合と同様に、受信側ではPort1とPort2のそれぞれに入力された信号が異なる伝搬路を経由して受信されるため、MIMO伝送が可能となります。本LCX-MIMO技術を適用することにより、従来の2倍のスループットを安定して実現可能なことを伝送実験により確認しました。

図3 1本のLCXで2アンテナ相当のMIMO伝送

 さらに、図4に示すように、2本のLCXを近接して設置し4アンテナ相当としてMIMO伝送に利用可能なことを基礎実験により確認しました。従来は、2本のLCXを用いてMIMO伝送を行う場合、LCX間距離をある程度大きくする必要がありましたが、今回開発した技術では、放射特性の異なる2本のLCXを適切に組み合わせることにより、LCX間距離が20mm程度でも4×4 MIMOを実現できることを実験により確認しました。LCX間距離の短縮はLCX敷設上の大きな制約緩和となり、実用化に向けた特筆すべき利点です。

図4 近接設置した放射特性の異なる2本のLCXで4アンテナ相当のMIMO伝送


図5 LCX-MIMO技術の原理検証実験の様子


【今後の展開】
 現在までに、従来のMIMO技術では効果が得られにくいとされている電波暗室内の見通し伝搬環境での伝送実験により、LCX-MIMO技術の有効性を確認しました。 これを活かし、今後、共同研究を進めている奈良先端科学技術大学院大学、株式会社フジクラと協力し、実際の利用環境でのフィールド実験により、LCX-MIMO技術を用いたシステムとしての性能を検証します。既設のLCXを使用した無線設備での通信容量・速度向上や、新たな形態の近距離無線通信システムの実現等、実用展開を目指します。

<用語 解説>
LCX Leaky Coaxial Cableの略。漏洩同軸ケーブル。通信に用いられる同軸ケーブルに細長い穴(スロット)を設け、スロットから電波が放射されることでアンテナとして利用できるように設計したもの。
リニアセル 直線形状の無線通信エリア。LCXを用いる場合には、LCX敷設方向に沿って通信エリアが形成される。通常の円形セルに比べて、セル間の切換(ハンドオーバ)頻度の削減、セル間干渉軽減などの効果により、高密配置が可能となり、また高い通信速度を安定的に実現できるという特長をもつ。
MIMO Multiple Input Multiple Outputの略。複数アンテナ送信/複数アンテナ受信により、無線通信路を空間多重して通信容量を高める技術。


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