プレスリリース

レーザ光から電波を作る
-Radio on Fiberに適したシンプルで高性能なミリ波光源を開発-
平成11年9月21日
(株)エイ・ティ・アール環境適応通信研究所

概要  
ミリ波をファイバーで伝送するRadio on Fiberは、ITS(高度道路交通システム)、次世代携帯電話用基地局間の信号伝送法として期待されています。「如何に高性能、低コストの光回路部品やデバイスを開発するか」が、この技術の普及のカギを握っています。
ATR環境適応通信研究所では、ファブリペロレーザを用いることにより、Radio on Fiber の最も基本的な部品である『ミリ波光源を従来より、はるかに簡易な構成で、かつ高性能化する技術』の開発に成功しました。

特徴  
従来のミリ波光源として、  
(1)直接変調方式、(2)主・従2つの単一モード(DFB)レーザを用いた注入同期方式、(3)モードロックレーザ方式などが提案されています。
これらは、いずれもハイテク技術を駆使したもので、(1)は最高性能のデバイス(高速変調器)を用いること、(2)は特性の揃ったレーザを長期にわたって高精度に周波数制御する必要があること、また(3)はミリ波の周波数がばらついたり制御が複雑となることなど、それぞれ欠点があります。
一方ATRで開発したミリ波光源は、前記(2)の方式の従レーザとして、低コストなファブリペロレーザを用いて構成されています。(図1参照)
従来の技術はミリ波を生成するという一つの目的を果たすのに精一杯でしたが、ATRで開発したものはファブリペロレーザの共振の度合いが緩く、主レーザの発振周波数の設定範囲が広くとれるため、主レーザの周波数選別制限が緩和されること、注入同期のひき込み範囲が従来の2GHzより4倍(8GHz)広がるため、部品にばらつきがあっても所望のミリ波周波数が得られる、といった原理的に低コストを可能とする特徴に加えて、ミリ波周波数可変範囲を従来より1桁(500MHz→5GHz)広く変えることができる特徴を有します。

原理  
ファブリペロレーザは、2枚の鏡の間の多重反射による共振を利用するもので、 DFBレーザに比べて共振の度合いが緩いため、いくつもの共振波長の光を出します。ここで注入同期をかけると参照信号と同じ周波数差分だけ違った2つの波長の光が生成されます。これら2つのレーザ光をPD(Photo Detector)で検波すればその差周波数の電波がPDの出力として得られます。共振の度合いが緩い分だけ生成電波の周波数の可変範囲は広くなり、かつ注入同期を行っているため参照信号に見合った安定な周波数の電波が容易に得られます。生成される電波の中心周波数はファブリペロレーザの共振長によってほぼ決まります。
将来ハイブリッド集積化した場合は、調整箇所が少ない、安定したミリ波光源の構築が可能となります。

Radio on Fiberは、トンネルや地下街のように電波の不感地帯へ電波を分配する場合などのごく限られた所でしか現在使われていませんが、このようなシンプルで高性能なミリ波光源の出現は、ITSや次世代携帯電話など大規模なインフラの構築を容易にし、ひいては一層豊かで快適な生活の端緒を拓くものと期待されます。
 これらの成果は、9月26日からニース(仏)で開催されるヨーロッパ光通信国際会議ECOC '99で発表予定です。


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新しいミリ波光源

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従来のミリ波光源の比較

(株)エイ・ティ・アール環境適応通信研究所は、2001年に研究プロジェクトを終了しております。