講演

LECTURE

社長講演 10/8(木) 13:00-13:30

ATRの40年、ニューラルネットワークから「いのちの未来」へ
~ハルシネーションと万能近似定理~
ATR's 40-Year Journey: From Neural Networks to the Future of Life
~Hallucinations and the Universal Approximation Theorem~

代表取締役社長
浅見 徹

浅見 徹

昨年の大阪・関西万博およびけいはんな万博を通じて、ATRは「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会」の実現に向けた研究を推進してまいりました。その成果を踏まえ、現在はAI、ロボット、脳科学、生命科学、無線通信を統合し、「いのちの未来」を支える研究へと研究ベクトルをさらに強めています。これは、ATRが創立以来進めてきた情報・知能・通信の研究を、人間、社会、生命へと広げる新たな挑戦でもあります。

ATRは1980年代からニューラルネットワーク研究に取り組み、音声認識、脳科学、ロボット、アバターへと研究を発展させてきました。その出発点の一つが、1988年に船橋賢一氏がATRで発表した4層ニューラルネットワークの万能近似定理です。さらに、入江・三宅らによる3層ニューラルネットワークの積分表示を基礎として、船橋は3層以上の実際のバックプロパゲーション型ニューラルネットワークに対する万能近似定理を導きました。一方、同時期にCybenkoやHornikらも異なる数学的立場から万能近似定理を証明しており、山頂は一つでも登山道は一つではないように、異なる数学的アプローチが同じ理論へ到達したことは、AI研究史の中でも極めて興味深い出来事です。

近年の生成AIは驚くべき能力を示していますが、一方でハルシネーションという課題も抱えています。本講演では、この現象を単なるAIの欠陥ではなく、「近似」という万能近似定理の本質から考察します。万能近似定理はニューラルネットワークが任意の連続写像を近似できることを示す理論であり、真理そのものを保証するものではありません。生成AIの高い能力も、ときに生じるハルシネーションも、「近似」という原理の延長線上にある現象として理解することができます。

本講演では、ATR40年の研究史を振り返りながら、万能近似定理から深層学習、脳科学、生成AI、そして「いのちの未来」へと至る研究の流れを紹介します。ATRが培ってきたニューラルネットワーク研究が、未来社会において人とAIが共生する知能システムの実現にどのように貢献していくのか、皆様とともに考えたいと思います。

招待講演 10/8(木) 13:30-14:00

京都府が目指すけいはんな学研都市のMIRAI
MIRAI: Kyoto Prefecture's Vision for Keihanna Science City

京都府 副知事
鈴木 一弥 氏

鈴木 一弥 氏

テーマ講演 10/8(木) 14:00-14:30

マルチモーダル脳活動計測で探る脳の状態とその応用
Exploring brain states through multimodal brain activity measurements and their applications

認知機構研究所 動的脳イメージング研究室
主任研究員
小川 剛史

小川 剛史

脳活動は、神経細胞をはじめとするさまざまな細胞の働きによって支えられており、その結果として電気的な変化だけでなく、エネルギー消費や血流の変化も生じます。こうした脳活動は、電気信号や電磁波、光などを利用したさまざまな「測り方」によって捉えることができます。しかし、それぞれの「測り方」には一長一短があるため、脳の状態を正確に理解するにはいくつかの異なる「測り方」を組み合わせることが重要です。脳の状態を調べる代表的な方法として、脳内で生じた電気的な神経活動が頭皮上の電極で観測される脳波と、それらに伴う血流の変化を画像として捉える機能的MRI(fMRI)があります。脳波は神経活動の時間的な変化を細かく捉えることに優れ、fMRIは脳のどの部位でその活動に伴う血流変化が生じているかを詳しく調べることができます。これらの異なる「測り方」を組み合わせることで、脳の状態をより多角的に理解できるようになります。

ATRでは10年以上にわたり、脳波とfMRIを同時に計測する研究に取り組んできました。その大きな目的の一つは、fMRIによって見出された脳の状態を、より手軽に計測できる脳波から推定することです。fMRIは高精度な計測が可能である一方で、大型装置が必要であり、日常的な利用には制約があります。そこで、fMRIで見つかった脳回路の特徴を手がかりに、脳波だけから脳の状態を推定する技術を開発してきました。

この技術を用いて、自分の脳の状態を見ながら脳の使い方をトレーニングする研究にも取り組んでいます。これまでの研究では、脳波を用いたトレーニングによって、健常者の作業記憶能力が向上する可能性が示されています。さらに、統合失調症の患者さんを対象として、認知機能の改善につながるかを検証する臨床研究も進められています。

また、脳波とfMRIを同時に計測する際には、MRI装置から生じる強いノイズが大きな課題となります。ATRでは計測技術や解析手法の改良を進めることで、より高品質な脳活動データの取得を実現してきました。その成果として、世界最大規模かつ高品質な脳波・fMRI同時計測データの公開にもつながっています。

本講演では、マルチモーダル脳活動計測によって脳の状態を多角的に捉える技術と、その活用事例について、実例を交えながら分かりやすく紹介します。また、その成果が認知機能の向上や精神疾患の支援などにどのように応用されつつあるのか、そして今後どのような展開が期待されるのかについてもお話ししたいと思います。

脳波とfMRIによるマルチモーダル脳活動の計測・推定・介入を示す図

テーマ講演 10/9(金) 13:00-13:30

つながるロボットから、つなぐロボットへ
~コネクティビティロボット技術の展望~
From Connected Robots to Robots That Connect
~Prospects for Connectivity Robot Technology~

インタラクション科学研究所
コネクティビティロボティクス研究室 室長
近藤 良久

近藤 良久

フィジカルAIやAIロボットが注目されています。AIロボットは、人手不足や働き方の課題を解決するだけでなく、産業や経済のあり方を変え、人と社会との新たなつながりを生み出すなど、幅広い社会課題を根本から変革する可能性を秘めています。私たちの生活をより便利で豊かにする、多くのAIロボットが身近にある社会が、目指すべき未来の姿として定まりつつあります。

高度なAI処理には、大量の情報と高い計算能力が必要です。そのためAIロボットは、自身が持つ情報や計算能力だけでなく、エッジやクラウドにある外部の情報・計算能力も活用します。ロボットとこれらの外部資源をつなぐうえで、重要な役割を担うのが無線通信です。これまでの無線通信サービスは、スマートフォンなどを通じて“人”に対して提供されることが中心でした。しかし近い将来、無線通信の主要な利用者はAIロボットへと移っていくと考えられます。AIロボットの普及によって爆発的に増加する通信需要を、どのように支えていくのか。これは、AIロボットによる社会課題の解決に向けた根本的な課題です。

これまで私たちは、ロボットを通信サービスの利用者として捉え、いかに安定した通信を提供するかを考えてきました。一方、ロボットには、AI(知能)に加え、自ら移動し、姿勢を変えられる身体性が備わっています。位置や姿勢を変えることで通信品質を高めたり、適切な位置で他のロボットや人に通信を提供するといった、通信の担い手としての資質を備えています。サービスロボットでありながら通信システムと一体となり、通信の提供者としても機能するAIロボット。それが、私たちが構想する「コネクティビティロボット」です。コネクティビティロボットは、AIロボットの普及に伴って増加する通信需要を、自ら通信の提供者となることで補い、AIロボットの普及と通信供給の拡大が相互に進む好循環を生み出します。

本講演では、これまで取り組んできた「つながるロボット」を実現するための通信技術と、その実証事例や事業化の取り組みを紹介します。さらに、新たに開始した「つなぐロボット」を実現するコネクティビティロボットの研究開発について、現在の取り組みと今後の展望を紹介します。

コネクティビティロボット ConNeo の概念図

テーマ講演 10/9(金) 13:45-14:15

けいはんな万博レガシーが拓く、実証都市から実装都市への進化
The Keihanna Expo Legacy: From a Living Lab to a City of Social Implementation

イノベーション協創部 代表取締役副社長
鈴木 博之

鈴木 博之

ATRは、けいはんな万博2025においてスタートアップ部会を主導し、これまで構築してきた23か国・47機関との連携覚書を基盤とする49か国・1,470機関からなるグローバルイノベーションネットワーク(図1)を活用して、日本・カナダ・台湾のスタートアップによる「KPoC(Keihanna Expo Global PoC Challenge)」を実施しました。地域住民や地域施設など、けいはんなの地域資源を活用し、地域、高齢化、健康、環境など日本が直面する社会課題の解決を目指した6件の社会課題解決型PoCを通じて、「研究開発基盤」「住民参加型PoC環境」「国際連携ネットワーク」という、けいはんなならではの強みを国内外へ発信しました。特に、住民や地域コミュニティと共創しながら社会受容性を検証する「住民参加型PoC環境」は、研究成果を社会実装へつなげる重要な基盤として、その有効性を示しました。

けいはんなは、けいはんな万博2025の成果も踏まえ、大阪・関西万博後の「ポスト万博シティ」として2026年度からの「第5期ステージプラン」を策定しました。同プランでは、「未来都市」「人材成長都市」「共創都市」の3つの都市像を掲げ、研究成果の社会実装、交流・連携と情報発信、科学技術と文化の融合、都市形成・交通アクセスの向上を重点的に推進することとしています。ATRは、このビジョンの実現に向け、京都府の支援のもと、2026年度もKPoCを国内外の社会課題やグローバル課題の解決に向けた共創プラットフォームとして継続するとともに、多様な企業との連携を通じて、社会受容性や事業性を早期に検証できる実証環境を提供し、けいはんなの「実証都市」から「実装都市」への進化を加速します。

AIの活用が社会の前提となる時代には、優れた技術を開発するだけでなく、住民や利用者と共創しながら社会受容性を検証し、実装へ結び付ける仕組みそのものが競争力となります。ATRは、「住民参加型PoC環境」というけいはんなの強みを最大限に活用し、人と人とのリアルな共創基盤とAIによるデジタルネットワークを融合することで、住民、企業、大学、スタートアップ、自治体、イノベーション支援機関が世界とつながる「人とデジタルの共創実証拠点」の形成を目指します。こうした取組を通じて、けいはんなが世界の社会課題解決と新たな価値創出に貢献するグローバルイノベーション都市へ発展することを目指します。

本講演では、2026年度に実施するKPoCや企業との共創活動を紹介するとともに、AI時代における住民参加型PoC環境の意義と、けいはんなが実証都市から実装都市へ進化するための今後の方向性について紹介します。

けいはんな発 グローバルイノベーション連携ネットワークの図

テーマ講演 10/9(金) 14:30-15:00

波動とネットワークの融合でAI社会を拓く波動ネットワーク研究所の取組み
Wave Innovation at the Network Edge for Solutions (WINES)

波動ネットワーク研究所 所長
坂野 寿和

坂野 寿和

ATR波動ネットワーク研究所(Wave Network Laboratories:WNL)は、2026年4月に旧「波動工学研究所」と旧「適応コミュニケーション研究所」を発展的に統合して設立されました。本研究所では、両研究所が長年培ってきた電波・無線通信技術とネットワーク・セキュリティ技術を融合し、AIが社会のあらゆる分野に浸透する時代に向けて、新たな「ウエーブ(波)技術」によるネットワークエッジの革新を通じ、多様な社会課題の解決と新たな価値創出に貢献することを目指しています。

「波動」の研究では、音波、電磁波、光など幅広い波動現象を対象とし、それぞれの特性を最大限に活用した革新的な情報通信技術の創出に取り組みます。一方、「ネットワークエッジ」の研究では、従来のユーザデバイスとネットワークを接続する無線アクセスネットワークに加え、NTN(Non-Terrestrial Network)に代表される非地上系ネットワークや、エッジコンピューティングなど新たなネットワーク領域の開拓にも挑戦します。さらに、これらの基盤技術をAIと融合させることで、防災・減災、モビリティ、医療、産業DXなど幅広い分野における課題解決型ソリューションを創出し、その社会実装を推進することを目指しています。

WNLでは、この研究ビジョンを”WINES(Wave Innovation at the Network Edge for Solutions)”として掲げています。これは、「波」の持つ可能性を最大限に引き出し、ネットワークエッジの革新を通じて多様な社会課題の解決(Solutions)を実現するという理念を表したものです。ATRがこれまで蓄積してきた情報通信分野の研究力を結集し、次世代の情報通信基盤の創出とAI社会を支える革新的技術の研究開発を推進していきます。

本講演では、ATRがこれまで取り組んできた情報通信分野の研究開発を俯瞰するとともに、波動ネットワーク研究所設立の背景とその意義を紹介します。また、WINESのビジョンのもとで推進する研究開発の方向性や重点研究テーマ、さらにはAI時代を見据えた今後の展望について紹介し、未来社会の実現に向けたWNLの挑戦について述べます。

波動ネットワーク研究所が描くネットワークエッジ革新(NETWORK EDGE INNOVATION)の概念図