ATR OPEN HOUSE 2024 ロゴ

講演

LECTURE

  • 社長講演 10/3(木) 13:00-13:30

    EXPO 2025 大阪・関西万博とATR

    代表取締役社長
    浅見 徹

    録画はこちらから

    「人類の進歩と調和」を謳った1970年大阪万博の高揚が冷めやらぬ1972年、ローマクラブがこの理念に冷や水を浴びせました。「成長への限界―人類の危機」で、21世紀前半に人類の生存に危機がくると予測したのです。これに触発された奥田東元京都大学総長は、1978年に「関西学術研究都市調査懇談会(奥田懇)」を起こし、「人類社会の諸課題に応える新しい学術研究機関の設置と総合的な学術研究都市の形成」を提言しました。新たな学問の創造を謳う高等研究所が所在する「けいはんな学研都市」は、万博以後の関西経済界の高揚感やバブルに向かう日本社会の勢いが作ったと言えます。多分野の専門家が集まった懇談会という手段で万人の英知を集めるという目標を考えたせいか、ATRも自動翻訳電話とか光電波通信のように万人が直感的に理解できる技術用語を使って創立されています。
    2025年の大阪・関西万博は、1970年と比べると国民の関心は薄い。それにはいろいろな理由がありますが、一つには私たちが分業哲学に洗脳されてしまい、自分の問題と捉えられないのだと思います。過去半世紀余りの間に資本主義的な分業哲学が社会の隅々まで行き渡り、効率化は進みましたが、自分の所掌内での生活だけに満足する人が多くなっています。組織内だけでなく、国家レベルでも研究課題を考える人とそれを実施する人に分かれ、大学等の研究機関の運営も投資会社的になりました。
    閑静の度が過ぎた沈黙の住宅街や、鶏小屋のように人を詰め込んだ高層アパートに代表される季節感のない人工空間が過去50年の間に作り上げてきた私たちの生活環境です。分業によりマニュアル化した作業をしている私たちですが、現在AIに一つずつ取り上げられていっています。これを前提にみんなで未来を考える機会が万博と考えれば、国民全員の問題になるはずです。
    今回の万博に石黒所長が提案した「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」は、ATRの社史からは川人学習動態脳プロジェクト(1996年開始)と石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト(2014年開始)の延長線上にあります。これらは、科学技術振興機構(JST)のERATO(Exploratory Research for Advanced Technology)の研究で、一言で言うとロボットの研究です。機械と共生する人間の作る社会で私たちが輝くにはどうしたらいいのか考える機会になればと祈念いたします。同時に、社会課題解決を目指して国民と協働するにしては、ATRの発表には専門用語が多く、これでは国民の心に刺さらないとも感じました。ATRも洗脳から解放されなければなりません。
    今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」ですが、「デザイン」は目標が決まっているのが前提です。目標そのものが揺らいでいる現在、「いのち輝く未来社会を想像しよう」の方が奥田懇的でよいのではないかと感じます。

  • テーマ講演(脳情報科学) 10/3(木) 13:30-14:00

    サイボーグAIによる人とAIの共進化

    脳情報解析研究所 所長
    石井 信

    深層学習などのAI技術、あるいは高度な制御技術の開発が進み、ロボットの利用場面の拡大に貢献しています。 今後は、人とロボットがそれぞれの長所を生かし短所を補いながら共に活躍できる社会の実現に向けて、 これまでの技術を組み合わせつつさらに発展させることで、実環境の多様な状況・タスクを人と同様に再現できる「賢い」ロボット搭載用AIの開発が求められます。 ATR脳情報通信総合研究所では、NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」を受託し、 人と同程度の俊敏な身体性で人と協働作業可能なヒューマノイドロボット搭載用AI、すなわち「サイボーグAI」の開発を進めています。
    スケートボード実施時の人の脳波・筋電・モーションキャプチャといったデータの同時計測と、ヒューマノイドロボット(図)による学習実験を 並行・連携して実施できる実験環境「ロボットスケートパーク」を、ATRロボット実験棟内部に構築しました。人やロボットのためのスケートボードランプ、 人やロボットの動きを計測するシステム、人の筋肉や脳の機能を同時計測可能とするワイヤレス計測システム、などが設置されています。 この実験環境において、「サイボーグAI」を搭載したヒューマノイドロボットによりスケートボードポンピング運動の生成に成功しました。 これは、人間のスケートボーダーが行うポンピング運動(足を使って推進力を得る動作です。ポンピングには、体重の前後移動と、 ボードへの圧力のかけ方が重要です。)をロボットに「マネ」させる、すなわち「見まね学習」により実現しています。見まね学習を構成するAI技術、 すなわち、強化学習や逆強化学習についても、効率が良いアルゴリズムなど優れたものが得られていますので、それらについても紹介します。

  • テーマ講演(深層インタラクション) 10/3(木) 14:00-14:30

    アバターで拡がるわたしたちの暮らし
    ~アバター共生社会プロジェクトと実社会実証実験について~

    インタラクション技術バンク 主任研究技術員
    堀川 優紀子

    録画はこちらから

    私たちの研究グループでは、大阪大学、京都大学などを含む全20機関と連携して、様々な立場の人が自在に参加できる社会を実現することを目指して、サイバネティックアバターを研究開発しています。サイバネティックアバター(Cybernetic Avatar、略称:CA)とは、人とAIが連携して操作することができる自分の身代わりとしてのロボットやCGなどの映像等を示すアバターのことを指します。これまでの人の社会参加は生身の身体を使う方法が主でしたが、様々な事情により社会参加が困難な人が少なくありません。本研究では、CAを活用した新しい社会参加方法を模索しており、そのために必要となる技術の研究開発と、実社会実証実験を行っています。
    新しい社会参加方法の検討には実社会実証実験が不可欠です。私たちの研究グループでは、CAの社会実装を見据えて、CAを利用して働く/暮らすことによる利点・欠点、実現可能性などの検討を、様々な業種、業態、人の状況において、約3年で60回以上の実社会実証実験を実施してきました。また、CAが浸透した社会を市民のみなさんに疑似体験してもらい、意見を収集し、現在の研究開発へフィードバックするバックキャスティング型実証実験として、2023年7月に実施したCA100台規模を体験できる実証実験(アバターまつり)では、市民のみなさん2,000人以上にご参加いただくことができました。
    本講演では、CAそのものと、CAを活用することで私たちの社会問題がどのように解決されるのかを、仕事・介護・子育ての経験を持つ私自身の経験を含めて、わかりやすく紹介します。また、2024年9月に実施するバックキャスティング型大規模実証実験(アバターランド)についても速報的にご紹介します。
    ※本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業 目標1「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」研究開発プロジェクトの一環として実施しています。

  • テーマ講演(事業開発) 10/4(金) 13:00-13:30

    Global Deep Tech Innovation Networkの構築
    ~けいはんなをディープテックイノベーションエコシステムのグローバルハブに~

    経営企画・イノベーション協創部 代表取締役副社長 鈴木 博之
    鈴木 博之

    録画はこちらから

    2025年大阪・関西万博の開幕まで残り1年を切り、これと連動して実施されるけいはんな万博2025も含めた準備が急ピッチで進められています。これと並行してATRが所在するけいはんな学研都市においては、国に「ポスト万博シティ」として位置付けられたことを反映し、2025年大阪・関西万博の成果を未来社会へつなぐ役割を視野に入れた具体的な方策が検討されています。
    ATRが2017年から構築を開始したグローバルイノベーション連携ネットワークは、この一年間に過去一番の成長を遂げ、新たに覚書を締結した7ヶ国、11機関を加えた13ヵ国、21機関から成る中核連携機関を始めとする国外40ヶ国の470機関を含む計1,129機関との広範かつ強固なネットワークへと発展を遂げています(本年6月末現在:図1)。また、この連携ネットワークをベースとした国内外のスタートアップ、中小企業及び研究プロジェクトを支援する3つのプラットフォームであるKGAP+、KGAP Explore及びKOSAINNでは、これまでに合計254社のスタートアップ(国内106、国外148)を受入れ、企業や地域の課題解決に取り組んできました。
    また、ATRは、これまでに74ヵ国から延べ2,997名の研究開発人材(研究者、技術員及びインターン等)を受入れた実績を持ち、2024年度に17ヵ国の37大学・研究機関との共同研究を行うなど、高い実績を持つグローバルな研究開発ネットワークを構築しています。
    ディープテック(Deep Tech)は、「特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術であり、その事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術」と定義され(経済産業省による)、ATRが取り組んでいる研究開発領域と一致しており、その事業化・社会実装に向けた取り組みは、昨年策定した「基本理念」とも合致しています。さらに、ディープテックの事業化・社会実装は、グローバルな共通課題であり、ディープテックに強みを有する多くの大学や研究機関が立地するけいはんな・関西が対処すべき課題です。
    本講演では、けいはんなをディープテックイノベーションエコシステムのグローバルハブにするために、ATRが取り組んでいるGlobal Deep Tech Innovation Networkの構築に向けた活動について紹介します(図2)。このネットワークは、研究開発、インキュベーション、アクセラレーションに関する3つのグローバルなネットワークから構成され、けいはんなの住民参加型PoCフレンドリー都市という特長との融合によって、先進技術やイノベーションに対する社会的な受容性の検証機能をも含めた「ポスト万博シティ」の具体的なコンセプトとしても位置付けられます。

  • テーマ講演(無線・通信) 10/4(金) 13:30-14:00

    テラヘルツ帯を活用した100 Gbps級無線LANの研究開発

    波動工学研究所 無線方式研究室 室長
    矢野 一人

    録画はこちらから

    Society5.0やサイバーフィジカルシステムの実現やこれらの普及に向けては、超臨場感コミュニケーションや遠隔制御に必要となる4K/8Kの超高精細映像を同時に複数伝送できたり、大量のセンサーデバイスにより取得された多種多様なセンシング情報等を伝送できる超高速無線通信ネットワークが必要となり、要求される伝送速度は将来的には1 Tbps(これはまもなく規格化が完了する最新バージョンの無線LANであるIEEE 802.11beの理論値に対して20倍以上)に達すると考えられています。屋内の様々な環境でそのような超高速無線ネットワークを実現する方法として、無線LANの伝送速度を向上させることは有力であると考えられます。しかしながら、現在無線LANで利用可能なマイクロ波帯(2.4/5/6 GHz帯)やミリ波帯(60 GHz帯)では、そのような超高速な伝送速度を実現するには周波数資源が十分ではありません。
    このため、我々の研究グループでは将来的な1 Tbps級の無線ネットワーク実現を見据えて、より周波数の高いテラヘルツ帯(主に150/300 GHz帯)を利用した100 Gbps級(非圧縮の8K動画が伝送可能となる速度)の無線LANシステムの研究開発を行っています。テラヘルツ帯はマイクロ波帯やミリ波帯と比較して、より広い周波数帯域を利用できる一方で、遠くや物陰に電波が届きにくいという課題があります。この克服に向けて、「比較的電波が届きやすいマイクロ波帯やミリ波帯を利用して、端末が接続可能なテラヘルツ帯アクセスポイントを探索する技術」や「複数のアクセスポイントから同時に信号を伝送することにより、伝送速度を向上させる技術」の研究開発を行っています。これに加えて、複数のアクセスポイントを連携させるために必要となる有線ネットワークである「超高速バックホール通信ネットワーク」の研究開発も、合わせて行っています。
    本講演では、これらの最新研究状況をご紹介します。

  • テーマ講演(生命科学) 10/4(金) 14:00-14:30

    生命科学・医療への応用を目指した生体埋め込みマイクロデバイス技術

    佐藤匠徳特別研究所 客員研究員
    德田 崇

    録画はこちらから

    現代社会において、エレクトロニクス(電気工学や電子工学)は社会のあらゆる領域に浸透した基盤技術です。私達をとりまくあらゆるコト・モノにはエレクトロニクスのしくみが働いています。しかし、一つだけ例外があります。それは私達をはじめとする生物です。生物は、人間がエレクトロニクス技術を手にするずっと前、太古から極めて精緻なメカニズムで命を紡いできました。生物こそ、エレクトロニクス技術にとっての最大のフロンティアであるといえます。
    ご存知の方も多いと思いますが、生命において電気は、目には見えませんが決定的に重要な役割を担っています。たとえば私達の脳や神経の仕組みには電気信号による情報伝達のメカニズムが組み込まれています。そのため、生命の中の電気の仕組みに働きかけることによって、生命活動の制御や疾患に伴う症状の緩和などが可能です。たとえば心臓ペースメーカーや埋込み除細動器、あるいや人工内耳といった画期的な生体埋め込み型のエレクトロニクス医療技術が実現されています。ただしこれらは限られた成功例です。柔らかくて複雑な組織と、多様なイオンを含む体液で構成された生物の体は、硬く、融通の効かないエレクトロニクス技術を容易には受け入れてくれません。
    心臓ペースメーカーなどは、それほど高くない精度(ただし正確な)で神経への電気刺激を提供するもので、サイズは3〜5cm程度のものが標準的です。それらに対して現在、私達を含む多くの研究グループが、新しい生体埋め込み型エレクトロニクス技術、特に超小型の生体計測デバイス技術の研究に取り組んでいます。たとえばサイズは1cmより小さく、機能として、電気で神経を刺激するだけではなく、たとえば血糖値や血圧といった、体の調子を知るための計測(センシング)を行ったり、必要に応じて薬剤を投与する機能を実現することができたら、私達の健康を増進し、長生きに貢献してくれることでしょう。
    本講演では、生体埋め込みマイクロデバイスがどのようなものか解説し、私達が取り組んでいる最新の研究例を紹介します。