ATR OPEN HOUSE 2022 ロゴ

特別企画

LECTURES and SPECIAL SESSIONS

日本学士院賞受賞記念講演 10/7(金) 16:00~17:00

  • 内部モデルから因果的神経科学へ

    脳情報通信総合研究所 所長・ATRフェロー
    川人 光男

    録画はこちらから

    私は、小脳の中に、外界の内部モデルが獲得されると言う『小脳内部モデル』理論を提唱し、それを実験的に証明し、またその計算論的蓋然性をロボットの学習実験で示しました。これは、ブレインマシンインタフェースの研究へと発展し、神経科学と人工知能を組み合わせて、精神疾患の診断と治療に革新的な方法を導入することにもつながりました。
    ブレインマシンインタフェースの中でもニューロフィードバック技術を精神疾患や発達障害の治療に役立てました。薬とは全く違う、精神疾患、発達障害の革新的な治療法として実用化が進んでいます。2017年に、株式会社XNef(エックスネフ)を起業して、社会還元に取り組んでいます。
    現在の精神医学では物理・生体計測にもとづく客観的検査が使われていません。これが、診断、治療、創薬が過去30年間停滞する大きな原因であると考えられています。図に示したように、患者がリラックスしている10分間に脳活動を機能的MRIで計測して脳回路パターン(いわば脳の設計図の青写真)を計測できます。これを機械学習で処理して専門医より一致率の高い診断補助に成功しました。
    小脳の内部モデル理論を、ブレインマシンインタフェースや精神科の診断・治療へと応用してきました。脳のモデルとしては、現在の人工知能、特にディープラーニングが抱える最大の問題:【データ貪欲】を、脳はどのように解決しているのかを明らかにしました。先ほどのデコーディッドニューロフィードバックを用いた実験から、ヒトが少数サンプルから学習できるのは、認知を認知する【メタ認知】能力によるもので、それが意識の起源であることを示唆しました。さらに、それに基づいて、2種類の内部モデル;生成モデルと推論モデルを多重に多階層に組み合わせたモジュール階層強化学習に、認知的実在モニタ回路CRMNを組み込む次世代人工知能を提案しました。
    私の研究は、基礎的な小脳の神経科学、ロボティクスと神経科学の融合、日本に強みのあるブレインマシンインタフェースの開発、精神疾患の診断と治療への脳科学と人工知能の応用など、多岐にわたっていますが、その底流には脳がどのように大規模なパターンを学習し、それを内部モデルとして保持するのかという手続き的記憶のメカニズムの探求という首尾一貫した目的があり、それがまた現在、意識の科学的理解から、次世代人工知能という最新課題への取り組みになっていると考えられます。

    講演者経歴:
    1976年東大理学部物理学科卒業。1981年阪大大学院博士課程修了、同年助手。1987年同講師。1988年(株)ATRに移る。2003年よりATR脳情報研究所所長、2004年ATRフェロー、2010年よりATR脳情報通信総合研究所所長。専門は計算論的神経科学。 現在は理化学研究所革新知能統合研究センター特別顧問、AMED「戦略的国際脳科学研究推進プログラム 3-①脳科学とAI技術に基づく精神神経疾患の診断と治療技術開発とその応用」研究開発代表者などを兼任。 科学技術庁長官賞、塚原賞、時実賞、朝日賞、大川賞、立石賞特別賞、C&C賞、令和4年日本学士院賞などを受賞。2013年紫綬褒章受章。日本学術会議会員。 著書に「脳の仕組み」、「脳の計算理論」、「脳の情報を読み解く」等。

    日本学士院賞の紹介(授賞理由):
    https://www.japan-acad.go.jp/japanese/news/2022/031401.html#006
    川人光男氏は小脳の中に外界の内部モデルが獲得されるという「小脳内部モデル」理論を提唱し、運動制御や視覚・聴覚など複雑な時空間パターンを情報処理・学習するための神経ネットワークの計算科学的研究を一貫して進めました。例えば、ヒトがコンピュータマウスなどの新しい道具を使用する時には、ヒト小脳の一部に道具の内部モデルが学習されることを、機能的MRIを用いて示しました。その小脳内部モデルの神経回路をヒト型ロボットに組み込んで、ロボティックスと神経科学を統合した新しい計算論的神経科学の研究パラダイムを作り出し、人が自然に考えただけでロボットを思うとおりに制御するブレインマシンインタフェース(BMI)、中でも体に負担をかけない非侵襲脳活動計測によるBMIの開発に成功しました。更に、BMIと人工知能技術を組み合わせたデコーディッドニューロフィードバック法を開発し、精神疾患の診断と治療に新たな道筋を示しました。

脳情報科学特別セッション 「内部モデルから因果的神経科学へ:最前線」

  • 10/7(金) 15:00~15:30

    内部モデル: 力学からコミュニケーションへ

    情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 室長
    春野 雅彦

    録画はこちらから

    ヒトを含むさまざまな動物は、外部世界でこれから起こる変化を経験に基づいて素早く予測し、瞬時に行動を取ることができます。この学習によって獲得される外界をシミュレートする脳内のモデルが内部モデルです。高度に進化した身体を持つヒトの脳は、多重/階層構造をもつ内部モデルを獲得することで、運動系列を生成し、複雑な力学特性を持つ外界と巧みに相互作用します。この多重/階層内部モデルを獲得する仕組みは、近年の深層学習技術の深化と相まって、現代のロボット制御における重要性を一層増しています。一方、内部モデルの重要性は運動制御に固有の話ではありません。さまざまな他者との関係の中で滑らかなコミュニケーションを実現するために内部モデルは必須であり、その位置づけは制御における予測モデルの延長線上で議論されるべきです。メタバースが普及し、個人が複数の自己や社会を往来する現代、ヒトのコミュニケーションを理解する上での多重/階層内部モデルの重要性もまた増しています。今回は川人により創始され先導されてきた多重/階層的内部モデルの研究について、制御とコミュニケーションの立場から振り返ってみたいと思います。

    講演者経歴:
    1993年、京都大学工学研究科電気工学第2専攻修士課程修了。NTTコミュニケーション科学研究所勤務。1997年よりATR人間情報科学研究所へ出向、計算論的神経科学の研究に従事。1998年、奈良先端科学技術大学院大学から博士号を授与される。2003-4年、ロンドン大学神経学研究所、2008年、ケンブリッジ大学工学部においてリサーチフェロー。2009年、玉川大学脳科学研究所勤務。2011年、NICT脳情報通信融合研究センター勤務。現在、脳情報工学研究室室長、大阪大学生命機能研究科招聘教授を併任し、社会行動研究グループを主宰する。計算論的神経科学、社会脳科学、機械学習等の研究に興味を持つ。

  • 10/7(金)15:30~16:00

    ニューロフィードバックで探る脳認知機能の仕組み

    理化学研究所 脳神経科学研究センター チームリーダー
    柴田 和久

    録画はこちらから

    本講演では、ヒトの脳活動を操作するための技術であるニューロフィードバックを紹介し、近年の研究動向を紹介します。特に、私たちがATRで開発した、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)のリアルタイム測定と機械学習法を組み合わせた新しいニューロフィードバック技術、Decoded Neurofeedback (DecNef)を中心に解説します。DecNefを用いることで、被験者の気づきなしに、ターゲットの脳部位に特定の脳賦活パターンを誘導することが可能となります。DecNefによって、視覚の学習や連合学習、また顔の好みの増減などさまざまな認知的変化を引き起こすことが可能であることが示されてきました。より最近では、恐怖記憶の緩和といったより臨床に近い分野にもDecNefは応用されはじめており、DecNefを基盤技術のひとつとして研究開発を進める、ATR発のスタートアップカンパニーも出てきています。DecNefを含むニューロフィードバック技術は今後さまざまな分野で広く使われていく可能性があります。

    講演者経歴:
    2008年、奈良先端科学技術大学院大学から理学博士を授与される。2008年よりATR脳情報研究所、ボストン大学、ブラウン大学の研究員を経て、2016年より名古屋大学准教授、量子科学技術研究開発機構主幹研究員を歴任し、2019年から理化学研究所脳神経科学研究センター人間認知・学習研究チームのチームリーダーを務める。主にヒトの知覚や認知における学習や潜在過程に興味を持ち、心理物理、脳イメージング、数理モデリング、脳刺激やニューロフィードバック等の手法を用いて研究を行っている。

電波COE特別企画

特別セッション

  • 10/7(金)10:00-10:20

    電波利活用強靭化を目指した電波COEプログラムの推進

    波動工学研究所 所長
    坂野 寿和

    本講演では、ATRが京都大学とともに総務省より受託、推進している電波COE(Center of Excellence)プログラムを概観します。はじめに、プログラムが目指す、電波利活用強靭化に資する人材育成と新技術の創生について述べます。続いて、プログラムを構成する主要3取組:共同型研究開発の推進、外部開放型研究環境の構築と活用、およびメンターの配置と研究サポート、について内容、推進状況を紹介します。最後に電波COEの今後について議論します。

  • 一般講演 10/7(金)10:20-10:50

    電波COEプログラムにて学んだこと ~Wi-SUN FANの研究開発を通じて~

    株式会社日新システムズ システム・ソリューション事業部
    プロダクト開発室 室長
    柏木 良夫

    電波COE研究開発プログラムの5つの技術課題の1つ「Society 5.0の実現に向けた大規模高密度マルチホップ国際標準無線通信システムの研究開発」を担っています。この課題では、無線分野の研究開発だけでなく社会実装をゴールにしています。プログラム開始時は継続すら危ぶまれましたが、5課題の中で3年連続最高評価を獲得しました。これまでのWi-SUN FANの研究成果とともに電波COEで学んだことをお伝えします。

    講演者経歴:
    1987年、株式会社ダイナウェア入社。DTPソフトウエア開発に従事。1991年、日新電機株式会社入社。ネットワーク機器、ネットワークシステム構築に従事。1997年、株式会社日新システムズで、組込みシステム開発に従事。2013年よりWi-SUNの開発及び国際標準化活動に従事、現在に至る。

  • 基調講演 10/7(金)11:00-12:00

    Beyond 5G/6Gの研究開発に資する組織と人財

    株式会社KDDI総合研究所 先端技術研究所長、兼、
    KDDI株式会社技術戦略本部 副本部長
    小西 聡

    KDDIはBeyond 5G/6Gの実現のため、未来のライフスタイルに関する研究と、未来のライフスタイルを実現するための先端技術の研究という両輪で取り組んでいます。本講演では、Beyond 5G/6G向け先端技術の核であるユーザセントリックネットワークを構成する無線通信や光通信などの最新の検討状況を紹介するとともに、研究開発を推進するための人財育成に向けた取り組みについても紹介します。

    講演者経歴:
    国際電信電話(株)(現、KDDI(株))入社。 同社研究所(現、(株)KDDI総合研究所)にて、低軌道衛星通信やメッシュ型固定無線、4G・LTEの無線資源割当や無線通信方式の研究開発や商用開発、ITU-R、3GPP、3GPP2等、国際標準化に従事。近年は、Beyond 5G/6Gの研究開発を推進。Beyond 5G推進コンソーシアム白書分科会ビジョン作業班リーダーとして、日本のBeyond 5Gホワイトペーパーの作成を主導。

外部開放型研究環境見学ツアー

  • 大型電波暗室見学(所要時間:15分程度)

    10月6日(木)11:30~11:45/14:30~14:45/15:30~15:45
    10月7日(金)12:30~12:45/14:30~14:45
    ※各回の開始時刻3分前までに1F共同型研究開発展示ブース前またはGF大型電波暗室前へお集まりください

共同型研究開発展示

  • COE-A

    電波COE研究開発プログラムの概要
  • COE-E

    外部開放型研究環境
  • COE-1

    Society 5.0の実現に向けた国際標準無線通信システムWi-SUN FANの研究開発
  • COE-2

    冗長検査情報を用いる通信品質要因解析に基づく無線アクセス技術
  • COE-3

    広域系WRANを用いた高能率周波数共用システムの研究開発
  • COE-4

    アンテナ特性の変化を利用した近距離センシング技術
  • COE-5

    全方位に同時複数通信が可能な三次元フェイズド・アレイ・アンテナ