プレスリリース

ミクロの世界のおりがみ技術(マイクロ オリガミ)
新しいマイクロマシン技術による3次元微細構造の作製に成功
(株)エイ・ティ・アール環境適応通信研究所 平成13年6月7日

(株)エイ・ティ・アール環境適応通信研究所(社長:小宮山牧兒、京都府精華町 関西文化学術研究都市 国際電気通信基礎技術研究所内)は、2種類の半導体材料の間のひずみを利用する新しい手法を用いて、あらかじめ決められた角度に自分自身で立ち上がるミクロンサイズの3次元立体構造を半導体基板上に形成することに成功しました(写真参照)。  従来、半導体(あるいは磁性体)デバイスにおいて、「ひずみ」はしばしばその特性を不安定にする要因として、影響をなるべく小さくするような手法がとられてきました(歪み超格子などの一部の積極的応用を除く)。 これに対して、今回実現した方法は、材料間の格子定数の差から一意的に決まる「ひずみ」による材料変形を積極的に利用し、種々の特徴を有する3次元構造を実現しようとするものです。

 今回、われわれは、ガリウム砒素 (GaAs)基板上に、GaAs層とインジウム ガリウム砒素(InGaAs)層からなる歪み変形層、アルミニウム砒素(AlAs)エッチング除去層、などからなる多層膜をMBE(Molecular Beam Epitaxy)法によってエピタキシャル成長した後、簡単なフォトリソグラフィーとウエットエッチングによって、平面部分と湾曲した蝶番からなる自立マイクロミラーや、3枚の互いに直交するマイクロミラーからなるバックリフレクターを作製しました。 GaAs基板上のエピタキシャル成長では、半導体レーザの作製においてよく知られる多層反射膜(DBR)層をそのまま利用することが可能で、これにより、光学特性ならびに3次元形状が任意に設計された種々のデバイスの実現への見通しが得られました。
 この構造では、従来のMEMS(Micro-Electro-Mechanical-System)技術で良く用いられる軸受けのような複雑な可動部が無いため、比較的簡単なプロセスで作製でき、また磨耗や吸着等の心配が無いことが特徴です。またこの原理は、上記のような半導体同士の組み合わせに限らず、格子ひずみを有するエピタキシャル成長が可能なあらゆる材料(金属、半導体、絶縁体)の組み合わせにおいて応用可能です (たとえば、SiとGeの組み合わせにより、Siをベースとした材料系にも適用可能)。

 今回作製した素子は比較的単純なものですが、複数の蝶番を用いることで、日本で古くから知られる 「おりがみ」のように、より複雑な構造を有するデバイスを自由に設計することが可能になると考えています。

この研究成果は、Applied Physics Letters 78, 2852-2854 (7 May 2001) に論文として掲載されました。


拡大画像


拡大画像

拡大画像


※(株)エイ・ティ・アール環境適応通信研究所は、2001年に研究プロジェクトを終了しています。