ATRの新たな基本理念&社長ご挨拶

新たな基本理念

ともに究め、明日の社会を拓く
情報通信関連分野の先駆的研究とイノベーション創出で課題解決に取り組む
●研究機関の視点でイノベーションエコシステムの発展に寄与します
●社会課題に加え、創出型課題に取り組みます
●先見力と挑戦心をもつ人材を輩出します
※創出型課題:研究者自らが見出し挑戦する課題
●他機関との協働や人材交流をオープンに推進します
●国際的見地で価値を追求します
●けいはんな学研都市の発展に中核的な役割を果たします


ご挨拶

令和 6年
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)


Asami

 代表取締役社長 
 浅見 徹 
 (あさみ とおる) 
 今年は新年早々能登地方で大地震が発生しました。上下水道が麻痺した状態では火事に対しては消防はなすすべがないことを我々は痛感いたしました。2日の日航機事故ではキャビンアテンダントの適切な行動とそれに従った乗客の対応で死者ゼロという奇跡が起きています。昨年はChatGPT始めとする生成AIが台頭し、今後どのように発展していくのか議論が巻き起こっています。このような技術は国民の幸福実現の手段のはずですが、まだまだ道のりは遠い。サービス提供者(日航)と利用者(乗客)のみごとな連携に倣えば、明日の社会は明るいと思いました。
 日本の大きな課題の一つに、国民の幸福度が低いことがあげられます。OECDの調査では社会的なつながりのない人が15.3%、内閣府の調査では会話頻度が1週間に1回以下の人が高齢の単身者の40%を占め、諸外国と比較して非常に高いことが知られています。アンケートに応じた比較的に前向きな人でこの数値ということは、アンケートに応じなかった人や引きこもり状態にある人も含めると、実際の割合はさらに高くなるはずです。また、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じてしか社会活動を行わない人々もおります。
これは集団の孤立とみなすことができ、社会分断の主因ともなっています。国民の社会的孤立化は、少子化の原因というだけでなく、異なる人々との交流が発明・発見の源泉でもあることを考えると、単なる個人のし好を越えた経済的・社会的問題となっています。
 わが国では、過去20年、効率化を目指して業務のマニュアル化が進んできました。その結果、作業効率は上がりましたが、反面で業務プロセスは硬直化し、事務机の上に並ぶものは20年前とあまり変わり映えがしません。近頃耳にするデジタルトランスフォーメーション(DX)は単なる効率化ではなく、ダイナミックにビジネスを変革しようとする運動です。ただし、新しい考え方ではありません。工場で昔から知られていた手法がサービス部門に適用されるようになっただけです。
 業務がマニュアル化されたことは、AIの導入障壁が下がったことを意味します。DXや働き方改革は、早晩AIに置換されるような単純業務には拘泥せず、真に人間が行うべき仕事に就くことを企業や従業員が希求する未来志向の運動と位置づけ、生き方を見直す機会にしたい。想像力と創造力を要求する仕事がますます重要になるでしょう。そのためには、我々自身の能力を上げなければなりません。DNAの情報を更新してきた生物進化から社会に情報を蓄える社会進化によって、私たち人間は生存競争に打ち勝ったという学説があります。社会関係を断つということは、この勝ちパターンを捨て、元の下等なサルに退化する道を選んだということになります。そもそも楽しい生活ではないでしょう。
 大阪・関西万博では、石黒浩特別研究所長を中心に、アバターを仲立ちに社会生活を円滑・拡張する「アバター共生社会」を目指すプロジェクトが進んでいます。かつての日本社会にあった銭湯や縁側といったような様々な人々が集い交流していた場に替わる役割をアバターが果たすことができれば、未来は明るいでしょう。大阪・関西万博の目標「いのち輝く」は、人生百年の最後の十年・二十年を独房で過ごす日本人の状況を考えると誠に時宜を得たものです。この理念の実現こそ万博のレガシーとして残すべきもので、全社をあげて推進すべき目標と考えます。