プレスリリース

積雪中のマイクロ波ビーコンの探索実験に成功

株)国際電気通信基礎技術研究所 平成14年3月25日

(株)国際電気通信基礎技術研究所(京都府相楽郡精華町関西文化学術研究都市 社長 畚野信義、略称ATR)は、富山県工業技術センターおよび富山県警察本部山岳警備隊の協力により雪中でのマイクロ波ビーコン探索実験を 実施しました。実験では、マイクロ波ビーコン(発信機)を雪中深く埋め、地上の数十m離れた場所から電波到来方向探知機の指示ランプの誘導に従って進むこ とによりビーコンの埋められた位置を1メートル四方以内の精度でつきとめることに成功しました。(現在使われている探索システムとの性能比較を表1に示し ます)本探索システムはATRでこれまで研究を進めてきましたエスパアンテナ(電子制御アンテナ:注1)を用いたハンディタイプ電波到来方向探知機と今回 新たに試作したマイクロ波ビーコンからなります。(写真1)

<開発した探索システムの特徴>  
1)高い位置精度(1メートル四方以内)が得られます。  
2)ビーコンは超軽量(重さ80グラム)の腕時計タイプです。  
3)最長600メートルの距離から探索できます。(ビーコンが地上にある場合)  
4)ビーコンは1回の充電で1ヶ月以上発信し続けます。

(写真1-1)

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(写真1-2)

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(写真1-3)

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現在他の探索システムで使われている低い周波数に比べ、マイクロ波は波長が短い(数十センチ以下)ので、 探索の位置精度を格段に高めることができます。しかし積雪の中では、雪が電波を吸収するため地上に比べて電波の減衰が大きく、しかも周波数が高くなるほど 減衰量は大きくなります。電波の到達距離を伸ばそうとして、発信電力を高くすると、消費電力も大きくなり、 電池の寿命を縮めるか、あるいは、重い電池を使うことになります。すなわち、「位置精度」、「小型軽量」、「長距離」、「長寿命」は互いに相反する関係に あります。これらを同時に克服したことが特徴です。

 従来、電波が到来する方向(すなわち発信源の方向)を知る手段としては、八木宇田アンテナなどの単一指向性アンテナを 機械的に回転させる手法があります。これに対して、エスパアンテナは機械走査に比べて処理速度が圧倒的に高速であるため、機械走査では困難であったミリ秒 単位の短いパルスの電波を捕捉し、その到来方向を推定できます。短いパルスを捕捉できたことにより、 ビーコンは電波を連続的に送信する必要がなくなり、1ミリ秒のパルスを1秒に1回送信する間欠的な送信でよくなりました。そのため、連続送信に比べて 1/1000の省エネとなり、すなわち、電池が1000倍長もちします。さらに、このシステムではスペクトル拡散技術(注2)を 組み入れたため、外来干渉波の影響を受け付けにくくなり、感度が大きく向上しました。これにより、ビーコンの方向を最長600m離れた場所から探知できま す(地上での測定値)。 1.5メートルの積雪中に埋まっている場合でも数十メートル離れた場所からの探知が可能です。

応用分野
 このビーコンは小型・長寿命で、また通信インフラのないところでも使用可能なため、雪山での探索のほか、これをハイカー、老人、幼児、 ペットなどに予め持たせることにより、山岳や被災地(地震によるがれき現場)などでの遭難、徘徊、迷子などが生じた場合の発見、救難、 人命救助にも貢献できると考えています。事故現場でのリアルタイムの探索が可能なので迅速な救難活動と2次災害発生の防止も期待できます。 また、探知機を移動車に搭載して電波到来方向へかじ取りする機構を設ければ、どこまでも追いかけてくるロボットやボタンひとつで呼びつけることの できるロボットができます。(いわゆるラジコン操作とは全く異なる機能です:写真2)
 この成果はケータイ国際フォーラム(3月26日~28日:京都市)に出展する予定です。
 本研究の一部は通信・放送機構の研究委託により実施しました。

(注1)
エスパアンテナとは、ATRで独自に開発した電子制御アンテナです。近年、電子制御アンテナとして、アンテナ素子を複数配置し デジタル信号処理する「デジタルビームフォーミング(DBF)」が各機関で研究されています。しかし、DBFは多系統の高周波受信回路を必要とし、消費電 力が大きいためバッテリ動作の携帯機器には搭載が困難でした。そこで、アンテナ素子間の電磁界相互結合を活用した「空間ビームフォーミング」の概念を提唱 し、この概念をハードウエア実現したものがエスパアンテナ(Electronically Steerable Parasitic Array Radiator Antenna:電子的に走査できるパラサイト導波器配列アンテナ)です。エスパアンテナは1系統の高周波受信回路で動作し、かつ、電子的に指向性を制御 できるので、DBFに比べて飛躍的に低消費電力化が達成できます。

(注2)
スペクトル拡散技術とは、次世代の携帯電話に利用されている技術で、送信機と方向探知機においてそれぞれ特定の符号列により信号を 拡散および逆拡散することにより、ノイズの影響を受けにくくし、無線の通信品質を向上させる技術です。

(写真2)

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(写真3)

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(写真4)

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(写真5) 拡大画像 (写真6) 拡大画像