プレスリリース

2022年 3月25日

株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
学校法人同志社 同志社大学
国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST)
人やロボットが触れながら説明した物を人はより「かわいい」と感じる
~商品説明でより「かわいい」と感じてもらう動きの設計に貢献~
2022年3月25日、03:00 am (日本時間)PLOS ONEオンライン版に公開

  • 人は「かわいい」と感じたとき、笑顔になります。その笑顔が周囲の人に伝わり、「かわいい」という気持ちをもたらすことで、人と人との交流を促します。しかし、コロナ禍ではマスク着用が感染予防に欠かせないため、笑顔を通じて「かわいい」と感じる気持ちを他者に伝えることが難しくなっています。
  • 私たちは、説明者が物に触れながら、その物についての説明をすることで、「かわいい」と感じていることが他者に伝わること、さらにはその他者もその物をより「かわいい」と感じることを明らかにしました。すなわち、マスクが人の笑顔を隠してしまう場合でも、触れることで物に対して「かわいい」と感じている気持ちを他者に強く伝えられることがわかりました(図1)。
  • 物に触れる存在がロボットであっても、同じ現象が起きることも確認しました。これは、ロボットという人工物であっても、物に対して「かわいい」と感じる気持ちを人に生じさせられることを示しています。コロナ禍でロボットも店員として活躍する中で、商品に触れながら説明することで顧客が「かわいい」と感じる気持ちを強くし、より興味を持ってもらえる可能性も期待できます。
  • 本成果は、マスクによって笑顔が伝わりにくいコロナ禍においても、物に触れることで「かわいい」と感じる気持ちが他者に伝わり、交流を促すきっかけを生み出せることを示唆しています。また、人が物に触れることで「かわいい」と感じる気持ちに変化をもたらしたことは、見た目以外にも「かわいい」と感じる要素が存在することを示唆しています。
図1 触れながら説明する(左)ことで、触れずに説明する(右)よりも、物に対して「かわいい」
と感じている気持ちを他者により強く伝えられる。
概要
 本研究では、人やロボットが物に触れることで「かわいい」と感じていると他者が見なすこと(下図左参照)、さらにはその他者も触れられている物をより「かわいい」と感じることを明らかにしました(下図右参照)。マスクによって笑顔が伝わりにくいコロナ禍においても、人が物に触れることで「かわいい」と感じる気持ちが他者に伝わり人の交流を促すことや、ロボットが店員として活躍する際に商品に触れながら説明することで、顧客が「かわいい」と感じる気持ちを強くし、より興味を持つことが期待できます。

背景
 コロナ禍の影響を受け、感染症対策の観点から様々なロボットの利活用が進んでいます。例えばコロナ疲れを癒す存在として、愛くるしい見た目を備えたペット型ロボットの普及が進みつつあります。ショッピングモールやレストランでは、親しみやすい見た目の接客ロボットが普及しつつあります。ロボットの利活用においては、社会に受け入れられるために見た目のかわいらしさが重要視されつつありますが、我々はむしろ見た目の影響を受けない、個人が抱く主観的な「かわいい」という気持ちを表現し伝える方法の重要性に着目しました
研究の狙い
 「かわいい」という感情は、人と人との社会的な交流を促すことが知られています*1。人々の笑顔にはその「かわいい」という気持ちを周囲に伝える効果がありますが、自然な笑顔を備えたロボットはまだ多くありません。またコロナ禍におけるマスクの着用習慣は、感染予防には欠かせませんが、人の笑顔を介して「かわいい」と感じる気持ちを他者に伝えることも難しくしています。「かわいい」と感じていることを笑顔とは異なる方法で他人に伝える手段として、私たちは、主観的な「かわいい」と感じる気持ちが、対象に近づきたいという気持ち、接近動機づけと結びついていることが明らかになっていることに着目しました。
 本研究では、対象に極限まで近づく動作である触れる行為を物に対して行うことで、対象物に対する主観的な「かわいい」という気持ちが表現されること、実験参加者もその対象物により「かわいい」と感じるようになること、さらには実験参加者が説明者をより「かわいい」と感じること、という仮説を立てました。
ロボットによる実験とその結果について
 それら仮説を検証するため、まずロボットが説明者となって対象物(ぬいぐるみ)に触れながら説明することで、実験参加者がその対象物により強く「かわいい」と感じるかを実験で検証しました。実験では、ロボットがぬいぐるみに触れながらそのかわいらしさを説明する場合と、ぬいぐるみに触れずに説明する場合を、対面で観察してもらいました。
 実験の結果から、ロボットがぬいぐるみを触れながら説明する場合に、実験参加者がぬいぐるみに対してより強く「かわいい」と感じることが判明しました。また実験参加者が、ロボットがぬいぐるみに対してより「かわいい」と感じている、と見なすことも判明しました。一方で、実験参加者がロボットに対して「かわいい」と感じる度合いは変化が見られませんでした。
人による実験とその結果について
 ロボットによる実験結果を受けて、説明者がロボットまたは人であった場合の動画を作成し、WEBでの追加実験を行いました。その結果、説明者が人であっても、ロボットの実験結果と同様に、実験参加者がぬいぐるみに対してより強く「かわいい」と感じること、および実験参加者は説明者がぬいぐるみに対してより「かわいい」と感じていると見なすこと、実験参加者が説明者に対して「かわいい」と感じる度合いには変化が見られなかったこと、が判明しました。以上により、ロボットでも人でも、実験参加者は説明者に触れられた対象物により強く「かわいい」と感じることが明らかになりました。
今後の展開
 本成果は、コロナ禍でロボットも店員として活躍する中で、商品に触れながら説明することで顧客が「かわいい」と感じる気持ちを強くし、より興味を持ってもらえる可能性を示唆しています。また、マスクによって笑顔が伝わりにくいコロナ禍においても、物に触れることで「かわいい」と感じる気持ちが他者に伝わり、交流を促すきっかけを生み出せることも示唆しています。さらに、説明者や対象物の見た目を変えず、説明者が物に触れることで実験参加者の「かわいい」と感じる気持ちに変化をもたらしたことは、主観的な「かわいい」と感じる気持ちを引き起こす要素が見た目以外にも存在していることを示唆しています。
【掲載論文】
題名: Kawaii emotions in presentations: viewing a physical touch affects perception of affiliative feelings of others toward an object.
(情報提供における「かわいい」感情:物理的な接触の観察が対象への「かわいい」と感じる気持ちに影響する)
著者: Yuka Okada, Mitsuhiko Kimoto, Takamasa Iio, Katsunori Shimohara, Hiroshi Nittono, Masahiro Shiomi 岡田優花(ATR/同志社大学)、木本充彦(ATR/慶応義塾大学)、飯尾尊優(ATR/同志社大学)、下原勝憲(ATR/同志社大学)、入戸野宏(ATR/大阪大学)、塩見昌裕(ATR)
掲載誌:PLOS ONE
掲載日:令和4年3月25日、03:00 am (日本時間) オンライン版公開)
DOI: 10.1371/journal.pone.026473
【研究支援】
本研究は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST:ソーシャルタッチの計算論的解明とロボットへの応用(研究代表者:塩見昌裕、JPMJCR18A1))、科研費(基盤A:「かわいい」感情の効用とその実社会応用に関する研究 (代表:入戸野宏))、JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ:ソーシャルキャピタルの醸成を支援するロボットシステム(研究者:飯尾尊優、JPMJPR1851))、科研費(特別研究員奨励費:対話を通した性格推定に基づく個人適応型情報提供ロボットの実現(代表:木本充彦))の研究プロジェクトの一環として実施されました。
【実験手順の詳細について】
 本研究では、二つの実験を行っています。一つ目の実験では、接触条件(触れて説明する・触れずに説明する)・動作条件(通常動作・強調動作)という2条件(4通りの組み合わせ)を設定し、ロボットがぬいぐるみのかわいらしさを説明する様子を被験者が対面で観察します。評価尺度として、「かわいい」と感じる度合い、「近づきたい」と感じる度合いをアンケートで計測することとし、各項目を、説明者に対する印象・説明者が物に対して感じている印象・物に対する印象について調べました。実験には42名の被験者(男女21名ずつ、年齢は21~49歳)が参加し、全ての組み合わせを体験しました。実験結果から、ロボットが物に対して感じている印象・物に対する印象において、通常動作条件において、触れて説明する方が触れずに説明する方よりも有意に「かわいい」と感じる度合い、「近づきたい」と感じる度合いが高いことが示されました。一方、説明者に対する印象では、接触条件において有意な差は示されませんでした。
 二つ目の実験では、物に触れることで「かわいい」と感じる度合いが、説明者が人の場合でも起きるかを検証しました。そのための視覚刺激として、ロボット及び人間の説明者が、実験1と同じようにぬいぐるみのかわいらしさを説明する動画を作成しました。実験条件としては、接触条件(触れて説明する・触れずに説明する)・説明者条件(人・ロボット)という2条件(4通りの組み合わせ)を設定しました。評価尺度として、一つ目の実験と同様に、「かわいい」と感じる度合い、「近づきたい」と感じる度合いをWEBアンケートで計測することとし、各項目を、説明者に対する印象・説明者が物に対して感じている印象・物に対する印象について調べました。実験には409名が参加し、人が触れて説明する・触れずに説明する動画を207名が、ロボットが触れて説明する・触れずに説明する動画を202名が視聴しました。アンケート結果におけるフィルタリングの結果、有効回答数は人の動画で124名、ロボットの動画で135名となりました。実験結果から、説明者が物に対して感じている印象・物に対する印象において、被験者は触れて説明する方が触れずに説明する方よりも有意に「かわいい」と感じる度合い、「近づきたい」と感じる度合いが高いことが、説明者が人でもロボットでも同様に示されました。また、説明者に対する印象においても接触条件において有意な差は示されませんでした。
*1:入戸野 宏 (2019). 「かわいい」のちから:実験で探るその心理 化学同人
【本件に関するお問い合わせ先】
■株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
 経営統括部 企画・広報チーム
 TEL:0774-95-1176
 FAX:0774-95-1178
 Email:pratr.jp

■同志社大学広報部広報課
 TEL: 075-251-3120
 FAX:  075-251-3080
 Email:ji-kohomail.doshisha.ac.jp

■科学技術振興機構 広報課
 TEL:03-5214-8404
 FAX:03-5214-8432
 E-mail:jstkohojst.go.jp
【JST事業に関するお問い合わせ先】
■科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ
 舘澤 博子 (たてさわ ひろこ)
 TEL:03-3512-3526
 FAX:03-3222-2066
 Email:crestjst.go.jp