プレスリリース

2023年 3月30日
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
同志社大学
謝罪するロボットの台数が増えるとより受け入れられることを解明
~人間社会で活動するロボットが失敗した際の振る舞い設計に貢献~
  • 人が失敗をしたときには、相手に対して謝ります。相手に謝罪を受け入れてもらい、許してもらうためには、どのような謝り方があるでしょうか?損害に対する補償の申し出や、重要な役職にある人物が時間を取って謝罪するなど、謝罪する側には様々な方法があります。
  • コロナ禍で複数のロボットが店員として活躍する中で、ロボットも人のように失敗をすることは免れません。そこで私たちは、給仕をするロボットが失敗し、謝罪を行うケースを想定して、別のロボットが一緒になって謝る場合の効果を検証しました。
  • その結果、ロボットが人へ謝る際に、もう1台別のロボットが一緒に謝ることで、人がより謝罪を受け入れ、有能だと感じることを明らかにしました。さらには、2台目のロボットが謝るだけではなく、片付けを行うような振る舞いも見せることで、より謝罪を受け入れ、有能だと感じることも明らかになりました。
  • 本成果は、ロボットという人工物であっても、複数台による謝罪を行うことで、より謝罪を受け入れてもらえることを示しています。人間の店員が失敗した同僚をサポートするように、あるロボットが失敗をした他のロボットをサポートする際の、振る舞いの設計に貢献できる知見が明らかになりました。この成果は、米国科学雑誌PLoS Oneオンライン版に掲載されました。
図1 ロボットが失敗した際(左)、2台で謝る方が1台で謝るより受け入れられる(右)
図1 図1 ロボットが失敗した際(左)、2台で謝る方が1台で謝るより受け入れられる(右)。
概要
 本研究では、失敗をしたロボットが謝る際に別のロボットが一緒になって謝ることで、より謝罪を受け入れてもらえること(下図参照)、さらには一緒になって謝る二台目のロボットが片付けを行うような振る舞いも見せることで、ロボットがより謝罪を受け入れてもらえることも明らかにしました。コロナ禍で複数のロボットが店員として活躍する中で、ロボットが失敗した際の振る舞い設計に貢献することが期待できます。
失敗をしたロボットが謝る際に別のロボットが一緒になって謝ることで、より謝罪を受け入れてもらえる
背景
 コロナ禍の影響を受け、感染症対策の観点から様々なロボットの利活用が進んでいます。例えば飲食店では、人の代わりに給仕を行う親しみやすい見た目の接客・搬送ロボットの普及が進みつつあります。しかしロボットが実環境で活動する際、失敗をせずに完璧に動き続けることは困難です。そこで私たちは、給仕をするロボットが失敗し、謝罪を行うケースを想定して、より謝罪をうけいれてもらいやすくすることの重要性に着目しました。
研究の狙い
 人が失敗をしたときには、相手に対して謝ります。相手に謝罪を受け入れてもらい、許してもらうためには、どのような謝り方があるでしょうか?損害に対する補償の申し出や、重要な役職にある人物が時間を取って謝罪するなど、謝罪する側には様々な方法があります。ロボットによる謝罪戦略に関する研究もおこなわれていますが、主に対話内容の違いがもたらす謝罪の効果にのみ着目していました。私たちはロボットが失敗をした際により謝罪を受け入れてもらうための手法として、ロボットの台数を増加させるアプローチに着目しました。
 本研究では、失敗をしたロボットが謝罪をする際に別のロボットが一緒になって謝ることで、人がロボットの謝罪をより受け入れるようになる、という仮説を立てました。
 
謝罪における台数の効果を検証する実験とその結果について
 この仮説を検証するため、ロボットが店員となって給仕する際に、注文した商品を落としてしまうという失敗をした状況において、失敗したロボットが1台だけで謝る場合と、別のロボットが一緒になって2台で謝る様子を動画で再現し、WEB上でアンケートを収集する実験を行いました。実験の結果から、失敗をしたロボットが謝る場合に、2台で謝ったほうが1台で謝った場合よりも謝罪を受け入れてもらえることが判明しました。また、ロボットに対する信頼度も増加し、商品を提供する店舗に対する不満が低下していました。以上により、謝罪を行うロボットの台数が1台から2台に増加することで、より謝罪を受け入れてもらえることが明らかになりました。
 また、2台目のロボットが行うべき行為として、謝罪ではなく片づけを行ったほうが良い、という多くのコメントを得ることが出来ました。そこで、探索的な取り組みとして、2台目のロボットが謝るだけの場合、謝らずに片付けの準備を行う場合、および謝った後に片付けの準備を行う場合の、3種類の動画を作成してWEBでの追加実験を行いました。その結果、2台目のロボットが謝った後に片付けの準備を行う場合が、最も好意的に評価されました。
今後の展開
 本成果は、ロボットという人工物であっても、複数台による謝罪を行うことで、より謝罪を受け入れてもらえることを示しています。人間の店員が失敗した同僚をサポートするように、あるロボットが失敗をした他のロボットをサポートする際の、振る舞いの設計に貢献できる知見が明らかになりました。ロボットの台数が謝罪の受け入れ度合に影響するのであれば、人間の店員が失敗した場合にロボット店員が一緒になって謝罪したり、ロボット店員が失敗した際に人間の店員が一緒になって謝罪したりするといった行動をとることで、より謝罪を受け入れてもらえる可能性を示唆しています。
【掲載論文】
題名:Two is better than one: Apologies from two robots are preferred
(二台は一台より良い:二台のロボットの謝罪はより受け入れられる)
著者:Yuka Okada, Mitsuhiko Kimoto, Takamasa Iio, Katsunori Shimohara, Masahiro Shiomi
岡田優花(ATR/同志社大学*)、木本充彦(ATR)、飯尾尊優(ATR/同志社大学)、下原勝憲(ATR/同志社大学)、塩見昌裕(ATR)
(*は研究実施当時の所属)
掲載誌:PLOS ONE
掲載日:令和5年2月22日、03:00 am (日本時間) オンライン版公開)
DOI:10.1371/journal.pone.0281604

【研究支援】
本研究は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST:ソーシャルタッチの計算論的解明とロボットへの応用(研究代表者:塩見昌裕、JPMJCR18A1))、科研費(基盤研究(B):ロボットサービスの実証実験の実践を支援する仕組みの確立(代表:飯尾 尊優)、若手研究:対話相手の関係性に配慮して情報提供するロボットの実現(代表:木本充彦))の研究プロジェクトの一環として実施されました。
【実験手順の詳細について】
 本研究では、二つの実験を行っています。一つ目の実験では、失敗をしたロボット店員が1台で謝罪する場合と、別のロボット店員が一緒になって2台で謝罪する2通りの組み合わせを設定し、ロボットが謝罪する様子をWEBアンケートで評価しました。評価尺度として、相手を許せる度合、悪い口コミをしようと思う度合い、信頼度、および謝罪の効果を高めるための自由意見についてアンケートで調べました。実験には203名の被験者(女性101名、男性101名、無回答1名、年齢は21~49歳)が参加し、フィルタリング処理を実施した結果168名の被験者によるデータ分析を行いました。実験結果から、2台で謝罪する方が1台で謝罪するよりも全ての計測項目において高い評価を得ることが示されました。なお、収集した自由意見からは、2台目のロボットが謝罪するのではなく片づけをしたほうが良い、といったコメントが多く見られました。
 そこで2つ目の実験では、1つ目の実験で得られたコメントに基づき、2台目のロボットの振る舞いのみを変化させて実験を行いました。1つ目の実験と同様に謝罪するのみ、コメントに従って片付けの準備を始める様子のみ、そしてそれらを組み合わせて謝罪した後に片付けの準備を始めるという、3種類の動画を作成しました。WEBアンケートによる実験の結果、2台目のロボットが謝罪した後に片付けの準備を始めることで、人からより信頼されることが示されました。

【本件に関するお問い合わせ先】
■株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR)
経営統括部 企画・広報チーム
TEL:(0774)95-1176
FAX:(0774)95-1178
Email:pratr.jp
■同志社大学広報部広報課
TEL: 075-251-3120
FAX: 075-251-3080
Email:ji-kohomail.doshisha.ac.jp