プレスリリース

2015年6月15日
(株)国際電気通信基礎技術研究所

国立循環器病研究センターと共同研究契約を締結
~肺がん転移抑制、心臓から分泌されるホルモンの分子機構の解明に向けて~
【概要】
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下「ATR」、本社:京都府相楽郡精華町、代表取締役社長 平田康夫)佐藤匠徳特別研究所の河岡慎平主任研究員らは、国立循環器病研究センターが9月から実施予定の肺がん手術後の転移を抑える臨床研究「非小細胞性肺癌完全切除症例に対する周術期hANP投与の多施設共同ランダム化第Ⅱ相比較試験(ANP study)」(http://www.ncvc.go.jp/pr/release/janp.html)に関する付随研究を実施する共同研究契約を締結し、hANPの作用機序の解明を目指します。

【背景と目的】
これまでに国立循環器病研究センターでは、高リスク肺癌手術に対して、術中より3日間hANPを持続投与することによって、術後急性期における心肺合併症を有意に軽減できること、そして術後慢性期における肺癌の再発を有意に軽減することを報告しています。このメカニズムについてマウスを用いて行われた基礎研究の結果、hANPは血管内皮細胞に働き、E-selectinをはじめとする血管接着分子を抑制的に制御することによって、癌細胞の血管への接着を防ぎ、その結果癌転移を抑制していることが分かっています。癌転移抑制機序として、癌細胞に対してではなく、癌以外の宿主細胞に対して効果を発揮する薬剤は極めて少ない為、これまでヒト臨床研究の中で、宿主側の制御メカニズムについては未だ多くが謎に包まれています。そこで、今回、共同研究契約を締結し、ヒト臨床検体を利用した網羅的遺伝子解析(トランスクリプトーム解析)を行います。hANPの作用機序を明らかにすることは、極めて有意義であると考えられます。

【研究内容と今後の展開】
本研究においてATR佐藤匠徳特別研究所の河岡主任研究員の研究グループでは、臨床研究で得られた肺癌病理組織を用い、トランスクリプトーム解析を実施することで、hANPの作用機構を解明することを目指します。また、本研究によって、hANP処置によるベネフィットの分子レベルでの根拠が与えられ、かつ、新たな予後マーカーや創薬ターゲットが発見されることが期待されます。

【用語解説】
  • hANP:心臓から分泌されるホルモンであるヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド
  • トランスクリプトーム解析:ある細胞で発現している遺伝子のプロフィールを網羅的に調査する実験手法のこと。
  • E-selectin : 白血球と血管内皮細胞との接着に関与する細胞表面の分子の一種で、炎症反応により血管内皮細胞に発現します。

【研究グループ】
本研究はATR佐藤匠徳特別研究所の河岡主任研究員の研究グループにより実施される予定です。

【研究サポート】
本研究は、JANP studyからの助成金サポートで実施されます。

【研究のイメージ図】