プレスリリース

2021年 2月 23日
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)

機械学習に基づく脳のトレーニング:デコーディッド
ニューロフィードバックに関する大規模データセットの公開
2月23日 10:00am(英国時間)Scientific Data誌に掲載

本研究成果のポイント
機械学習に基づいた脳活動トレーニング:デコーディッドニューロフィードバックは、恐怖心の軽減や好みの変化、自信を高めるといった、魅力的な応用が広がっています。しかし現状、ニューロフィードバックで脳が自己調節する機構を理解するためのデータは圧倒的に不足しています。この度、日本、米国、カナダの研究グループは、デコーディッドニューロフィードバックに関する大規模なデータセットを公開しました。

近年、研究者たちは、人工知能と脳イメージング技術を組み合わせることで、脳から特定の恐怖心を取り除いたり、確信度を高めたり、人の好みを変えたりする方法を発見しています。この技術は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や恐怖症、不安障害などの患者の新たな治療法につながる可能性があります。

この技術は非常に有望な一方で、効果には個人差があり、すべての人に効果があるとは言えません。なぜそのように結果に差がでるのでしょうか。人が自己の脳活動を調節するメカニズムを明らかにし、個人差を生み出すメカニズムを理解することができれば、これらを克服し、この技術の臨床応用実現に大きく近づけることができます。そこでこの技術を主導してきた研究グループは、基礎研究から臨床応用への発展を加速させるために、5つの異なる研究[補足資料]を含むデータセットを公開しました。

「デコーディッドニューロフィードバック」は、脳内の特定の情報(例えば恐怖の記憶など)を読み取って解読し、それを被験者にフィードバックする方法に基づく技術で、約10年前に、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の研究者によって開発されました。デコーディッドニューロフィードバックでは、fMRIを用いて脳活動を可視化し、リアルタイムの脳活動と事前に定めた特定の記憶や精神状態に対応する脳活動パターンとの類似度を算出します。高い類似度が検出されると、実験参加者は金銭報酬を与えられます。脳活動パターンが検出されるたびに報酬を与えるという単純な作業を繰り返すことで、もともとの記憶や精神状態が変容されていきます。この実験では参加者はどのような脳活動パターンを自己調節しているかを理解・認識する必要はありません。例えばデコーディッドニューロフィードバック技術は、PTSDの暴露療法に伴うストレスの回避、また薬物への依存の改善などが期待されており、これらを加速するためには、より多くの研究者が実際の実験データを使って脳のメカニズムを解析することが必須です。

 研究グループは、デコーディッドニューロフィードバックのトレーニングを受けた60人以上のデータからなる世界で唯一のデータベースを構築しました。このデータベースは、脳の構造画像、脳の機能画像、機械学習によるデコーダ、及び処理済みデータで構成されています。データセットの利用希望者は、ATRの機関リポジトリ[1]か、神経科学データのオンラインリポジトリであるSynapse[2]を通じて申請する必要があります。データセットへのアクセス方法の詳細は、ATRとSynapseのウェブサイト及び、原著論文内でも明記されています。

[1]ATRリポジトリ(DecNef Realtime MRI Dataset)
https://bicr-resource.atr.jp/drmd/

[2]Synapse
https://www.synapse.org/#!Synapse:syn23530650

この研究成果は、2月23日の午前10時(英国時間)にScientific Data(Nature Publishing Group)・オンライン版に掲載されます。

論文情報
Cortese A, Tanaka SC, Amano K, Koizumi A, Lau H, Sasaki Y, Shibata K, Taschereau-Dumouchel V, Watanabe T, Kawato M. " The DecNef collection, fMRI data from closed-loop decoded neurofeedback experiments "
Scientific Data. doi: 10.1038/s41597-021-00845-7

お問い合わせ先
<研究内容に関すること>
(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)経営統括部 企画・広報チーム
〒619-0288 京都府相楽郡精華町光台2-2-2
Tel: 0774-95-1176, Fax: 0774-95-1178, E-mail: pratr.jp
https://www.atr.jp/

(注:は、画像です。)

補足説明
関連論文
Study 1: Shibata K, Watanabe T, Kawato M, Sasaki Y (2016) Differential activation patterns in the same brain region led to opposite emotional states: PLoS Biol 14(9): e1002546. doi: 10.1371/journal.pbio.1002546.Link
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.1002546

Study 2: Amano K, Shibata K, Kawato M, Sasaki Y, Watanabe T (2016) Learning to associate orientation with color in early visual areas by associative decoded fMRI neurofeedback. Curr Biol. 26(14):1861-1866. doi: 10.1016/j.cub.2016.05.014.Link
https://www.cell.com/current-biology/pdfExtended/S0960-9822(16)30472-9

Study 3: Koizumi A, Amano K, Cortese A, Shibata K, Yoshida W, Seymour B, Kawato M, Lau H (2016) Fear reduction without fear through reinforcement of neural activity that bypasses conscious exposure.
Nat Hum Behav. 1:0006. doi: 10.1038/s41562-016-0006.Link
https://www.nature.com/articles/s41562-016-0006

Study 4: Cortese A, Amano K, Koizumi A, Kawato M, Lau H (2016) Multivoxel neurofeedback selectively modulates confidence without changing perceptual performance. Nat Commun. 7:13669. doi: 10.1038/ncomms13669.Link
https://www.nature.com/articles/ncomms13669

Study 5: Taschereau-Dumouchel V, Cortese A, Chiba T, Knotts JD, Kawato M, Lau H (2018) Towards an unconscious neural reinforcement intervention for common fears. Proc Natl Acad Sci USA. 115(13):3470-3475. doi: 10.1073/pnas.1721572115.Link
https://www.pnas.org/content/115/13/3470